「相手を尊重して話す」ということ

昨年度、私が勤務している学校で英語を母国語としない親たちにフォニックスのレッスンを週に 1 回ずつ、2 グループに教えていました。

ハンガリー、インド、パキスタン、ブルガリア、ポーランド、トルコなどから渡英してきたお母さんばかり。中には、イギリスで生まれ育ったけれど、英語がそれほど得意でないという人もいました。お母さんたちの英語のレベルは、会話では全く困らない人から、日本でいう中学 1 年生のレベルくらいの人まで、さまざま。共通しているのは、フォニックスを知らないということ。つまり、

『家で子どものサポートができない ⇒ 子どもも家でのサポートが得られない ⇒ 英語が伸びない』

という図式が出来上がってしまいます。これでは、子どももかわいそうだし、親もかわいそう。流暢に英語が話せない非ネイティブの私が、会話には全く不自由のない人に英語で教えていくというのもなぁ・・・と最初はちょっと戸惑ったのですが、子どものために、そしてお母さんのためにフォニックスのレッスンをすることにしました。7 回のレッスンは楽しく、あっという間に終了。42 の音をすべて入れ終わって、お母さんたちにフィードバックを取りました。

共通した感想は

・子どもをどうやってサポートしていいかわかった

・自分自身、英語の音と綴りの関係を知らなかったから自分の勉強になった

ということが多かったです。

そして、すごくうれしかったのが、

コミュニケーションを(私と)取れたことがとてもよかった。Kayoko の話す英語がわかりやすく、レッスンに参加していても理解できたことが何よりもうれしかった。たいてい、英語話者の英語はわからず、もういいやって思ってしまうけれど、今回はそんなふうには思わずに、自分がすごく楽しめた。

という感想をいただいたこと。自分が普段から気を付けていることを、こうして言葉として受け取ることができるというのはとてもうれしいことです。

私自身、英語ができないで渡英したので、「英語がわからない」ということがどれだけつらいことか身を持って体験しています。その中のひとつ、今でも鮮明に覚えていることを紹介します。

15 年前、渡英してすぐにお医者さんの登録に行きました(イギリスは GP といい、自分を担当してくれる医者を登録する必要があるのです)。そのとき、受付の人に

“How long ・・・・・?”

と質問されたので、”How long” と言えば、現在完了形!と思いこんでいた私は、どれくらいイギリスにいるのか聞かれていると思い、

“1 month”

と答えました。そうしたら、あからさまに怪訝な顔をされ、また同じ質問をされました。私は何が悪いのかわからず、

“1 month”

と、また答えましたが、今度は思いっきりため息をつかれ、また同じ質問。ゆっくり話してくれるものの、何がいけないのかさっぱりわからず、受付の人も帰って・・・みたいなそぶり。どうしていいかわからないときに、受付で順番待ちしていたおじさんが

“When will you go back to Japan?”

と聞いてくれたのです!「when・・・いつ go back ・・・帰る Japan・・・日本 『いつ日本に帰国するの?』これなら意味が分かる!

“5 years”

と答え、受付の人もほっとした顔をし、私も無事に登録ができたのです。

理解できないのなら、違う言い方をすればいい。このときに身を持って体験しました。おじさんは私が理解できていないということを理解していてくれた。うれしかったなぁ。おじさんが天使に見えました!

ここで学んだのは、ただ「ゆっくり」言えばいいということではない。同じ質問を繰り返せばいいのではない。ということ。その人の英語のレベルに合わせて知っているだろう単語を使う、わかるだろう時制を使う。これがとても大切なことだと自分自身の体験から得たことです。コミュニケーションって「理解」しなければ意味がない。難しい言葉を使えばいいというものではありません。

言語はそのネイティブから習うのがいい、みたいな風潮がありますし、私もそう思っていました。しかし、こうした経験を繰り返し、ネイティブだからいいという考えは今は持っていません。相手が理解できるように話をすることができることが大切だと、私はとらえるようになりました。今回いただいたフィードバックを読んで、英語もフランス語もヒンズー語もタミール語も日本語もみんな言語。コミュニケーションをとるための道具。お互いのことを思いやり、respect (尊重) していくことがとても大切なことだと再認識しました。自分がつらい経験を(山のように)しているので、自分が接する人にはそんな思いをさせたくない・・・そんな気持ちを改めて思い出させてくれたフィードバックでした。

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