『多感覚を用いたシンセティック・フォニックスと特別支援教育』

2015 年 5 月 27 日(水)に広島大学学習システム促進研究センター(RIDLS)にて表題「多感覚を用いたシンセティック・フォニックスと特別支援教育」の講演をさせていただきました。 そのときに作成した論文資料をここに掲載します。(表紙をクリックしてください。)

*本論文の著作権は山下にあり、無断転載は固くお断りいたします。引用される場合には、当サイトのURLを必ず明記していただけますようお願い致します。

日本で英語の先生やお母さん方、小中学校の先生と話をしていると、「フォニックス」は英語の専門家が教えるもので、一小学校の教師や親が教えられるものではない、と思っている人が多く、英語の文字指導をあまりにも身構えすぎてしまっているような気がします。また、「フォニックス」という言葉が独り歩きしているような感じもします。

子どもたち(また指導者も)混乱しないように、英語の文字(アルファベット)には「」があり、基本的な単語はこの「音」を使って読み書きすることを明示的に指導していく「シンセティック・フォニックス」がイギリスでは指導されています。

フォニックスというのは、文字と音の関係を指導することで、日本でいう「ひらがな」や「カタカナ」、「漢字」などの文字指導と同じです。私たちが小学校で(またはお家で)文章を読み書きするためには、いきなり文章や単語から教えるのではなく、まずはひらがな一つ一つ読めて書けるようにします。そして、「つ」「く」「し」という 3 つの文字を習えば、「くつ」、「くし」「つくし」という単語を読んだり書いたりできるようにします。

シンセティック・フォニックスではこれと同じように、一つの文字が「どう読むのか」という「」に着目し、s, i, t という 3 つの文字と音を習えば “it”, “sit” (“is” に関しては s の音は /z/ と読むため、例外となる) と読めるように指導していきます(i の「アィ」というのは文字の「名前」であり、「イ」がその文字の「音」です)。

そして、ひらがなの五十音が終われば次に、拗音や撥音など学習し、そして徐々に単語から文に発展していきますが、このとき、「は」という文字が助詞として使われるときには「わ」という発音になることを指導していきます。シンセティック・フォニックスでも同様に 44 前後の文字と音の関係を学習してから、i という文字が「アィ」と読むときはどういう時なのかを、学習していきます。まさに、ひらがなの指導と同じ仕組みです。

それを、a は 「エィ」で「ア」と読む、と指導し、「ア」で読むということを明示しないと、子どもたちに「単語を読むときに a は ”エィ” なのか ”ア” なのかどっち?」という混乱が生じてしまうのではないかと思われます。ひらがなでも、「は」を「は」と読むことと「わ」と読むことを同時には教えませんよね。

私自身、日本の子どもたちにシンセティック・フォニックスを指導してきて 10 年以上経ちますが、5、6 歳児の子どもたちが暗記に頼らずに単語の読み書きをする姿を見て、この方法は日本人に合った方法だと思ようになりました。また、文字指導という点を離れて「発音」という視点から見ても、発音がきれいになり、英語話者と英語が通じやすくなっていることに気が付きました。大人にも指導していますが、みな、発音がきれいになったり、英語の音が聞こえるるようになった、といいます。

そして、中でも、シンセティック・フォニックスのプログラム(教材)の一つ、ジョリーフォニックス(Jolly Learning Ltd.)では、お話やアクション、歌、そして文字に触れる(実際に文字を指でなぞれる)などの多感覚を用いた教え方によって、特別な支援が必要な子どもたちが一つの文字の読み書きだけでなく、単語を読み書きできるようになっていく姿を見て、日本の小学校での文字指導はこれがいい、と強く感じるようになりました。

この「いい」という点は子どもだけでなく、指導する側が英語が得意でなくても、教えることができるのがいいのです。もちろん、指導者は英語の文字の音を一つずつ学び、簡単な単語を単語として読んだり、一音ずつ区切って読む技能は必要です。(例:hat と読むこと、そして /h/ /a/ /t/ というように一音ずつ区切ること。)しかし、これを習得するのに、それほど多くの時間を必要とはしません。(また、どうしても発音できないという場合には、音源を使うこともできます。)

しかし、このシンセティック・フォニックスは、イギリスでもまだ新しい教授法であるためか、日本ではほとんど紹介・実践されていないのが現状です(2015 年現在)。少しずつ「シンセティック・フォニックス」について紹介しているホームページなどを見かけますが、「シンセティック・フォニックス=多感覚を使ったフォニックス」と誤解されているようです。多分、これはイギリスの教育省がシンセティック・フォニックスを指導するプログラム(教材)には「多感覚を用いていること」と明記されて指導されているため(Phonics teaching materials: core criteria and the self-assessment process)ではないかと思われます。シンセティック・フォニックスは「文字のと文字とを同時に指導し、すぐに 3 文字単語などを読めるようにしていく教授法」であり、決してシンセティック・フォニックスは多感覚を用いて教えるフォニックスという意味ではありません。(最初にジェスチャーやチャンツなどを使ってエィ、ビー、シーなどの文字の名前を教えることは決してありません。)

「フォニックス」は英語がちゃんとできる子どものためとか、日本では中学生が習うものなどと決めつけずに、日本人の子どもにあったフォニックスもあることを知ってもらいたい・・・それも、教室で子どもが取り残されることのない指導法もあることをわかってもらいたい・・・そんな思いをまとめたのがこちらの論文「多感覚を用いたシンセティック・フォニックスと特別支援教育」です。

今回、自分自身、「フォニックスがいい」とは言わずに、きちんと「シンセティック・フォニックスがいい」とちょっとしたことですが、気を付けて紹介しなければ、と強く感じました。

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