ジョリーフォニックス以外のフォニックスプログラムのトレーニングに参加して
8月23、24日の二日間にわたって、Phonics International (Debbie Hepplewhite) が主催するシンセティック・フォニックスのトレーニングを受けてきました。参加者は12名。
イギリスの小学校先生が5名、ティーチングアシスタントが1名、スペイン、ラトビア、ポルトガルから1名ずつ、南ロンドンのカウンシルの人が1名、ホームエデュケーションをこの9月から行うというお父さん、そして私。
イギリスでは2006年に Jim Rose が「システマティック・シンセティック・フォニックス(系統立てたシンセティック・フォニックス指導)」を推奨したことから、2007年に教育省が Letters and Sounds を公表し、この後、様々な会社がこの Letters and Sounds に沿ったシンセティック・フォニックスの教材を作っています。今回受講した International Phonicsの創始者である Debbie は、それ以前に自分の指導方法を編み出したそうです。もともと彼女は、ジョリーフォニックスを使って学校で指導をしていたそうですが、ジョリーフォニックスでは同音異綴りの紹介が遅いということ、もっと早い段階で複雑な英語の綴りのルール (The English Alphabetic Code) を指導できる、という信念のもと、独自に教材を開発したそうです。
ほとんどの教材は、一年間の契約でメンバーになり、ホームページからダウンロードする仕組みになっています。自分でフォルダーに入れて、そこにメモ書きをして、自分オリジナルのテキストを完成させる、という形です。
さて、研修自体はかなりの量のパワーポイントスライドもあり、ほとんどは講義形式で行われました。
初日は、「シンセティック・フォニックスが生まれた背景やイギリスでの小学校の現状」を最初の3時間くらい、その後、「Debbie の指導方法の根底にある考え」を聞きました。
私はシンセティック・フォニックスについて知識も経験もあるので、ブレンディングやセグメンティング、ハンドライティングなどについては簡単に理解できましたが、やはりシンセティック・フォニックスについて知らない人には、ここはしっかり説明しないと、現地人ですら難しいものです。日本人にはやはり日本語でしっかりと説明する必要性を再認識できました。
また、おもしろいのが、英語の音44音を一緒に発音していくのですが、たった数分で終了(笑)。そりゃ、みんな「子音」の音も「母音」もちゃんと出せる人たちばかりなので、私のトレーニングのように一つ一つの音を出し、コツを伝えたり、ブレンディングする必要はないんですね。
2日目は実践ということで、実際にどのように授業を展開していくのか、こちらも講義形式でお話がありました。午後は、お嬢さんの Abbie が Oxford University Presss と共同開発した Floppy’s Phonics の話がありました(彼女の授業のデモはうまかった!)。
イギリスでは電子黒板が一般化されているので、この Floppy’s Phonics のソフトはよく考えられていて、学校ですぐに活用できそうですね。
さて、私が参加した理由は「日本に導入するには」という点と「自分のトレーニングへのリフレクション」という点を考えるためです。
まず、「日本に導入するには」というところから。
■日本の小学校でシンセティック・フォニックスとして Phonics International のプログラムを導入できるか
正直、難しいというのが私の感想。ただし、英語環境がある程度あり、基本的な単語 (snake, apple, teddy, insects など) の単語を知っているのならできるかもしれません。
Phonics International が重視しているのは、「読み」「書き」「ハンドライティング」。そして、たくさんの単語を読み書きさせ、理解力を付けていくことを目標にしています。ですので、たくさんの単語を読み書きさせ、そしてすぐに「文章」を読ませるところに行きます。
日本の小学校では、ここまではとてもではないけれど、無理でしょう。
■英語環境のある塾などで子どもたちに導入できるか
こちらは「多分できる」と言えます。ただし、かなりの量の読み書きを求めているので、例えば多読を重点に指導されている教室や、英語が得意で理解力のあるお子さんにはいいのでは、と思います。
■多感覚を用いているか
私自身、子どもたちが (英語に限らず) 学ぶ環境として多感覚を重視しています。様々な子がいる小学校の教室では、なおさら、子どもたちに届くアプローチをしていかなければいけません。
イギリスでも、教育省がシンセティック・フォニックスを導入する際に推奨している基準を満たしたものが教育省のサイトで紹介されています。ですので、この「多感覚」がどれだけ用いられているのか、すべての子どもにやさしいアプローチになっているか、というポイントを見てみました。
各文字に一つずつイラストが描かれていて、それが「多感覚」と謳っているだけで、正直、がっくりきました。とくに、教えるときには
「はい、今日はこの /s/ の音を勉強します。この絵を見てください(ヘビの絵)。これは何ですか?・・・そう、Snake。じゃ、ゆっくり読みましょう。s/n/a/ke。もっとゆっくり。s~/n/a/ke。はい、最初に /s/ が聞こえましたね。その /s/ という音の文字がこの s です。」
という方法。
このイラストを使っているから多感覚だ、というわけです。これでは、Snakeという単語を知らない子どもにとっては文字と音の結びつきがなかなか理解できずに終わってしまうこともあります。
また、彼女自身、読み書きに関係のないものは、授業で取り入れるべきでない、ということを強調しており、「ジョリーフォニックスのアクションや歌などはもってのほか。意味がない。」とまで言っていました。なるべくシンプルな導入を目指している感じでした。
■日本人には使えるか
この質問には「はい」と言えます。
例えば、高校生や大学生、また社会人で英語の綴りと音が混乱して、文章を読めるけれど「発音できない」という人には非常に適した教材だと思います。
このチャートは Phonics International のサイトから無料ダウンロードできます。
私も9月から大人にフォニックスを教えることになっており、そのグループで使ってみようと思っています。
■系統だっているか
日本で子どもたちにフォニックスを教える際、一つ一つ丁寧に教えていく必要があります。導入し、練習し、また何回も復習しながら定着を図ります。そういう意味では、 Debbie もここを重視しています。
しかし、子どもから
「私の名前に/s/の音が入っているけれど、s の文字がない」という質問があれば、上記チャートを見せて、「ほら、ここに -ce があるでしょ。ほかにも、 -ce という綴りで /s/ と読むのはこういう単語がありますよ」と紹介していくそうです。確かに、これは必要なことですが、理解できる子は理解できますが、そうでない子もいます。混乱してしまう子もいます。私としては、後者の子どもたちがわかるようになることも必要だと思っているので、そういう点では、系統だっているか、と言われたら、?になります。
■自分のトレーニングへのリフレクション
こちらは、いろいろ考えさせられました。自分はいつも指導する立場でいて、見えない部分がいろいろ見えますね。これは導入したい、という部分もあり、そういう意味ではとても勉強になりました。今私が行っているトレーニングの内容を見直し、来年度から実施できるようにしていこうと思っています。具体的には
・教材についての説明がきちんと必要だということ。ハンドアウトにきちんと落としていきたいです。
・すぐに指導できるように、参加者の方に授業をする体験をしてもらいたいということ。今は実践編としていますが、やはり基礎トレーニングできちんと学んでいただく必要があると感じました。
一概にシンセティック・フォニックスの指導、といってもさまざまな方法があります。基本的には1音に相当する文字を指導し、すぐにブレンディングをしていくことなのですが、今回、私にはジョリーフォニックスのよさが再認識できる機会となりました。ジョリーフォニックスは音韻認識に関しても、必ず「s の音、聞こえる?」とくどいくらい行うし、多感覚というものが何なのか、ブレンディングの仕方も私にとっては【あっている】方法だと感じました。ただし、中学生や高校生に指導していく際、もっと同音異綴りを早く指導できないか、と考えていたので、今回の Phonics International のトレーニングに参加してよかったと思っています。
常に「学ぶ」ということは必要なことだと感じた2日間でした。
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