公立小学校での教員研修
私は今年、日本における「暗記重視」の読み書きの指導を変えたい!という思いからジョリーフォニックスの公認トレーナーになって 10 年という節目を迎えました。2013 年にトレーニングを開始ししたころは、全くの無名のジョリーフォニックスでしたが、たくさんの方のサポートに恵まれ、2017 年には「はじめてのジョリーフォニックス」のステューデントブックとティーチャーズブック、2019 年には「はじめてのジョリーフォニックス 2」のステューデントブックとティーチャーズブックの出版までできました。
公立小学校でジョリーフォニックスを導入できたら、根本から読み書き指導を変えられると考え、市教委にもアピールしたことも幾度もありますが、見向きしていただけないことが続いていました。(大阪市へのアプローチに関してはこちら「大阪市の英語教育においしい話!」「大阪市教育委員会からの回答」でもちょっとだけ触れました。)しかし、少しずつ「ジョリーフォニックスがいいらしい」という声をもとに現場の先生や市教委の主事の方がトレーニングに参加し始め、現在では私が関わってきた自治体は 10 市以上になりました。
教員研修として講師をさせていただくのですが、ありがたいことに、1 回限りで終わりになることは少なく、何年も継続してお声をかけてくださる市が多いため、そういった市では現場の先生や子どもたちの声を聞きリアクションを目にする機会にも恵まれ、それらを改善しながらより現場に則した研修を行っています。
最初は「42 音でも教えるのは難しい」とても「同音異綴り」や「ひっかけ単語」までは指導できません、という声が圧倒的でした。が、今では、この「同音異綴り」や「ひっかけ単語」まで指導したいとおっしゃってくださる先生や学校や市も出てきています。
では、どんな内容で私が教員研修をしているのか、簡単にお伝えしたいと思います。教員研修だけでなく、師範授業もさせていただくこともあります(私の至福の時)。
【日本語と英語の違い】
そもそも、読み書きができるようになるには、日本語でも英語でもその言語の一番小さい音の単位を知らなければなりません。日本語は拍、英語は音素と、それぞれ異なる単位になります。これらについて小学校 1 年生での国語の指導やしりとり遊びなど日本の先生の身近な話題から「日本語の音」の最小単位を意識してもらいながら、「英語の音」の最小単位との違いについて説明をします。
【国語と英語の日本における読み書き指導】
国語ではひらがなを書きやすい一筆書きのものから丁寧に指導しています。子どもたちは書かれた文字を見て、それぞれの文字の「音」をくっつけるように拾い読みしながら「ことば」としてかたまりが読めるようになっていきます。「つくし」という単語を書くときも「つ、く、し」と一音ずつ音をばらしながらその音の文字を書いていきます。
他方で、英語の指導ではなぜか「文」や「単語」がいきなり登場し、いきなり読ませられてしまいます。どの文字(綴り)がどの音なのか、どの音がどう書かれるかの指導も十分には行われません。多くの場合、音とアルファベット文字の関係を明示的に指導してもらったのは「ローマ字」だけなので、英語もローマ字読み(書き)になってしまいます。
これらの指導方法の違いを理解し、英語であっても国語のように丁寧に英語も読み書きを指導していく必要性があることを理解してもらいます。
【シンセティック・フォニックス】
フォニックスには大きくアナリティック・フォニックスとシンセティック・フォニックスがありますが、国語のように一音一文字からそれをくっつけてことばとして読む方法が、英語の読み書きではシンセティック・フォニックスにあたります。その中の一教材がジョリーフォニックスなのですが、まずはシンセティック・フォニックスの指導法について説明します。
【ジョリーフォニックス】
多感覚を用いたジョリーフォニックスを実際に私が公立の小学校で指導している DVD を観ながら、重要なポイントを説明していきます。子どもが自分で読み書きできるようになるためには、指導者が明示的に「子ども自身が自分で読める」「子ども自身が自分で書ける」ようになれるように指導していかなければなりません。
どの音がどう綴られるか、どの綴りがどういう音になるのかという「知識」だけでは不十分です。読めるようにするには「音をくっつける(ブレンディング)」力が、書けるようにするには「単語を音に分解する(セグメンティング)」力が必要になります。「知識」だけでなく「操作する力」をつけていくことが重要です。
多くの方がジョリーフォニックスはジェスチャーがあるから、と言いますが、それは文字と音の一致を想起させる一手段であり、それを教えることが目的ではありません。
【2 回目以降の研修】
2 回目以降の教員研修は、すでに知っている先生も全く知らない先生も参加します。同じ内容にすると「もう知っている」となり、もう少し別の視点から説明すると「よくわからない」となります。この辺りをどうもっていくか毎回、頭を悩ませます。しかし回数を重ねることで平面的だった理解が、多面的な深い理解へとつながることも多々あります。また先生たちの方から「もっと指導していきたい」という声も出て来て、42 音以降の「同音異綴り」「ひっかけ単語」についても説明をするようになります。
また、先生方にグループになってもらい、一人が先生役、他の方が子どもの役になって授業の練習も行うこともあります。これは先生方にとって指導の理解が深まるいい活動になります。
【42音のその後】
2018 年ごろ、なんとか 42 音を・・・と話をしていた自治体。それが、2021 年ごろから「同音異綴りやひっかけ単語も指導したい」と先生方が言い出す。まさかここまで、と感慨深いです。
実際に今回の某市での研修(2023 年 10 月)は、私が児童に同音異綴りとひっかけ単語を指導する授業を公開し、その後の教員研修ではそれについての討議。また、「フォニックスはフォニックス」と別枠で扱われてしまい、教科書の授業ではその技能が活かされないということで、児童が教科書を読めるようにするにはどんな指導が必要か、という話しもします。現場の先生がたのニーズに応じて教員研修は変わっていきます。
私が通常行っているオンラインのジョリーフォニックス総合トレーニングで 18 時間かかる内容を、教員研修では 1.5 時間に凝縮して行っています。ただ、やはり 1.5 時間ではどこまで理解し、実践に活かしているか(児童が読み書きできているか)が課題で、実際に先生が指導しているところを参観してその内容を吟味していくことが不可欠なステップになります。そういう意味でも、今回の学校訪問は私にとってもありがたい機会となりました。
また、授業参観をすると、正直う~ん・・・と思う授業もあったりします。それは私が大切なポイントを伝えきれていないことが原因なこともありますし、先生が曲解したり思い込んだりしてしまうことが原因のものもあります。そこで、市教委と話をし、初めて指導する先生が自信をもって指導できるようにオンデマンドで学んでいただけるようビデオを作成したり、指導案をつくったりもしています。英語が苦手だという小学校の先生がどれだけ「わかった!できた!もっと指導したい!」と思ってもらえるかが、私にとって大きな挑戦です。
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