教育講演会:怒ると叱る

先日、私が住んでいる地域で日本人のお母様方を対象に教育講演会をさせていただきました。
内容は「日本とイギリスの学校の違い」を主にして、そこから褒めることの重要性や子どもの自尊感情へと話を発展させていきました。参加してくださった方から「すごくよかった」「もっと早く聞きたい内容だった」「日ごろの様子を省みる機会になった」などなどポジティブなリアクションをしていただけて、私も嬉しい限りです。
その中の内容を少しずつ、紹介していこうかな~と思っています。今日は「怒る」ことと「叱る」ことの違いについて。興味のある方は是非ご覧ください。
怒る叱るって何が違うのでしょう?
多くの辞書を見ると、この二つの言葉は「同意語」とあるんですが、基本的に怒るは

「起こる」と同語源で、勢いが盛んになる意から、感情が高ぶるのを言うようになったもの

                    引用:国語大辞典(新装版)小学館 1988
とあります。つまり、自分の内から湧き上がる感情をそのまま相手にぶつけることが「怒る」ことと解釈できます。
これに対して「叱る」は相手の悪い行いなどを威圧的にとがめることです。感情で自分の思いを爆発させるのではなく、あくまでも「相手」を考えての行為だととらえられます。
「怒る」というと、腹が立ったときにお腹の中でイライラがわきあがって、それがとげとげのボールになって口から相手に向かってぶつけるというような感じをイメージします。受け手は、そのとげとげのボールを受けることもできず、ぶつけられてただ苦痛が突き刺さるような感じです。怒る方から怒られる方への一方通行であり、怒り手がただ自分の感情をぶちまけるだけ、という点が特徴です。
こうなると、受け手はそのボールをぶつけられた時の痛みをコントロールしたり、ボールをかわすようになったりしていく術を学びます。どれだけ怒られても懲りなくなったり、逆に爆発させてしまったりするようになります。
よく子どもを怒っているお母さんが、怒っている最中に「聞いているの?」と怒鳴る声が聞こえることがありますが、子どもは聞いていないのか、あるいは聞いていても「やり過ごせばいいや」と思っているのでしょうね。このとげとげのボールを受け流したりかわしたりする術を子どもは学んだんでしょう。
これに対して「叱る」というのは、「相手のことを考えて」ということが第一に来ます。たとえ大声で怒鳴ったとしても、その言葉や態度には「私はあなたのことを考えている」というメッセージが含まれています。受け手は、叱り手が投げたボールを正面から受け取ることもあるし、わざと落とすこともあるし、かわすこともあります。でも、落としたとしてもそれを見つめたり、後で落ちているボールを拾ってみたり、何らかの行動が伴って起こるものだと思います。ここで先程の「怒る」と違うのは、放たれたボールがとげとげではないということ。だから、叱られた時にボールを受け止めなかったとしても、ボールにとげがないから後から拾ったり、触ったりもできるわけです。よって、叱る方と叱られる方の間には何らかの行き来があるということです。
どうやって叱るのがいいのか。
まず気をつけたいのが、「あなたは・・・」とは言わないこと。あなたが悪い、あなたがだめ・・・と言われ続けられると「あなた」=いけない子=要らない子 と子どもはとらえてしまいます。
そこで、主語を「私」に変えて叱ることが大切になります。なぜ「私が」こうして叱っているのか、「私が」何を思っているのか、「私が」いやだと思うこと・・・主語を I (英語のI=私) にして伝えることを “I メッセージ” と言い、受け手も自分のことを客観的に見て、反省できるようになります。(*私の体験談は下にあります。)
「あなたのそれが悪いから、やめなさい」と言われるよりも、「お母さんはこれはよくないと思うからこうしてほしい」と言われた方が、素直に受け取れません?
ただ、これを実践することは確かに難しいです。私も仕事していても “カッ” となることがあります。そういう時は、まず深呼吸をするようにしています。すると、頭に酸素が回って、止まっていた脳が動き出すような・・・そんな感じになります。そうすると冷静になれるんです。
あとは、叱るときには「短く・その場で」が鉄則。引きずらない。後からぐちぐち言わない。
そして、大切なのが一貫性連続性を持つこと。
「昨日はよかったのに今日はダメ」「お母さんと二人っきりのときはダメだけど、お客さんがいるときはいい」という一貫性のない叱り方では、子どもも言うことを聞かなくなります。また、いけないことならいけない、ということをどんなときでも伝えていく連続性も必要になります。


*私の体験談
この “I メッセージ” については、大学院でも勉強した内容なんですが、実は私はこれを実体験で得ていたことに気が付きました。
イギリスで仕事をし始めたころ、子どもが何らかの悪いことをし、私自身 “カッ” となることもしばしばありました。ただ、悲しいかな、英語なので、とっさに怒鳴ることができず、ぐっと我慢し頭の中で英文を考えていました。
その時、考えるという作業によって、少し冷静になれたんですね。
そして、私の乏しい英語力では、当時「I think that you should ・・・・(私は、君は・・・したほがいいと思うんだけれど)」という構文しか頭の中で出てこなくて、結果、いつも I メッセージを送ることになっていたのです。この英語では必ず「主語」をつけるということも、私にとって、I メッセージを考える、いい訓練になりました (日本語は「~は」という部分ってよく省略しますよね?) 。
この「怒れない」という経験から、確かに今もそうそう「腹が立つ」ということはありませんね。そんなわけで、ただ単に怒れなかっただけなんですが (苦笑)、今では 私=patient (辛抱強いとか根気があるという意味) というイメージが定着しています。こんな私が学校で子どもを叱るときは、子どもはかなり “ガツン” と来るようです。(周りの大人の方が驚きますが・・・。)
ちなみに・・・
こんな話をすると、私が日本で担任していた子どもに「嘘みたい~」と言われそうなほど、日本で教員をしていた時はしょっちゅう「怒鳴って」いましたね。ある日、子どもから
「先生、カルシウムが足りないかもしれませんね」
とメッセージをもらい、はっとしたことは今でも忘れません。子どもに大切なことを教えてもらいました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください